フェイスブックの恐怖!その美女、私の母かもしれません

(2018.11.11 幻冬舎plus公開稿より)

 母がフェイスブックで活動しはじめて6年になる。昭和29年生まれ。現在64歳で、父と二人で田舎でつつましやかな年金暮らしをしながら、飼い犬を溺愛し、日々、EXILEと三代目J Soul Brothersの情報収集に燃えている。

 母がフェイスブックに登録したきっかけは、正月にしか会わない娘の私の投稿を覗こうとしたことだった。最初は自宅のパソコンから登録してみたものの、使い方もよくわからず「友達」は私だけ、アイコンもデフォルトのままで、自身がなにかを投稿することもなく、たまに私の記事に「いいね!」を押すのが精一杯。私はある意味で安心していた。ところがそのうちに、見ず知らずのはずの私の知人と勝手に「友達」になり、メッセージのやりとりをしていたことが発覚。相手の方はなにも悪くはないのだが、母が何をでしゃばり出すかわからないと思った私は、電話で懇々と「インターネットの恐怖」について説諭し、会話も「友達」もやめてもらった。しかし、これは序章に過ぎなかった――。

ニセの美女写真で友達800人つくった母

 ほどなく、会ってもいない他人をいちいち見なければならない世界に嫌気の差した私は、フェイスブックを退会し、母は取り残された。そしてアカウントはログインされないまま、ぽつねんと浮遊――するのかと思いきや、当時スマホを使いはじめた母は、暇にまかせてアプリというアプリを試しており、フェイスブックについても私がまったく知らないうちに使いこなすようになっていた。そしてある日のこと。母から果物が送られてきた。

『フェイスブックで知り合った農園の人からもらったから、おすそ分けするわ』

 え!? 驚いて、しばらくぶりに母のフェイスブックを探した私は、度肝を抜かれた。なんと「友達」が800人規模、フォロワーが400人規模に大増量しているではないか! ど、どういうこと? しかも、私がやってた時よりはるかに「友達」多いんですけど……。

 アイコンには、ネットで拾ったらしい身元不明の雰囲気ある30代ぐらいの美女の写真が堂々と掲げられていた。口元のところにハートマークをデコって、功名にニセ写真だと判明しづらいようになっている。職業は「販売業」。洋菓子店でスイーツを売っていることにしているようだった。なぜに! 若い頃、不二家のパートをやっていたことがあるからだろうか?

 とにかく、これが母のアカウントだと知らなければ、私だって「スイーツ屋さんで働く30代前半ぐらいの女子」と思っただろう。恐ろしいことだが、案の定、フェイスブック越しに母の「友達」になった男性たちは、完全に騙されて浮かれたコメントを書き込みまくっていた。

『むちゃかわいい!(´∀`艸)♡』『よっ、お姫様♪いつかお茶したいな (^ω^)』『美人ですね。どこのお店で働いているんだろう。お会いしたいなあ』

 やめてー! お会いしないでー! それはとてもキケンよーー!

 狼狽した私は、「でもちょっとオモロイ」と思ったのもあり、母には黙ったまま、日々母のフェイスブックを観察しはじめたのである。

写真とマメすぎるコメント返しでキャッチする母

 それにしても、母はどうしてこんなに「友達」が多いのか。観察してみると、どうやら「友達」を増やすためだけのグループに参加しており、そこにどんな自己紹介文を投稿したのかは定かではないが、「友達リクエスト」があれば手あたり次第に応じているようだった。そして、「集客」したのちは日々のやりとりで「キャッチ」してゆく。

 母の投稿は、ランチやスイーツ、自室で育てている観葉植物や、趣味のキラキラした小物の写真など些細なものだったが、投稿するたびに少なくとも十数件、多いときで50件以上のコメントがつく。ほとんどが男性だ。母は若い頃から写真が趣味で『ニコンF』を所有して使いこなしていたほどだったので、撮り方が非常にうまく、美女のアイコン写真との相乗効果で、どこからどう見ても「キラキラ女子」にしか見えない。

 しかも驚くべきことに、どんなつまらないコメントでも、どれだけ件数が書き込まれていても、母はそのひとつひとつに「〇〇さん」と名前を添えて、ちょっとしたお礼のコメントを返しているのである。なんという暇……いや、マメさ加減! これにキュンとしてしまったらしい中高年のおじさんの何人かが、ほぼ日課のように30代キラキラ女子っぽい私の母と会話を交わしていた。

 ダメよー! それは還暦過ぎた田舎の母なのー!

 私から見える範囲でも相当なコメント量なのだから、直接のメッセージではなにをやりとりしているか、わかったものじゃない。そして、ちやほやされまくりの母のボルテージは、どんどん上がってゆく。

還暦祝いの花束を「男性から」と匂わす母

 ある日、とても見覚えのある写真が投稿されたので目ん玉が飛び出した。母の還暦祝いの際に、リクエストされて私が贈った60本の真紅の薔薇の花束だった。値の張るものだったが60年のお祝いだと思って奮発した。受け取った母は大喜びして、大きな花束の写真を何枚も撮ってメールで私に送ってきたのだが、それと同じ写真が今頃、フェイスブックにアップされているのである。しかも、コメントにはこう書かれていた。

『今朝……こんな素敵なものをいただいてしまいました……どうしよう』

 うおおおおおおーーーい!! どうもするなーーー!!

 こっちがどうしよう、である。今朝いただいた!? 4年前も前の還暦祝いなんですが!! しかし、母を30代キラキラ女子と思って交流をあたためていた男性たちは、思いっきり揺さぶられている。

『すごい。どなたからですか? お誕生日なのかな?』『もしかして、彼氏から?』

 母のニセ写真に相当入れ込んでいるのか、花の本数をいちいち数えてしまった男性もいて、『60本もありますね! 豪華だなあ、もしかして結婚なさるのですか!?』などと慌てている。惜しい! 60本、それは非常に重要なヒント! だが母は動じない。

『うふふ。誰からでしょう? 内緒です』『結婚? それはどうかなぁ』

 否定も肯定もせずに、ただひたすら思わせぶりな返信をひとりひとりに返していく母。これまたニセの美女写真と相まって、「いまどき、こんなすごい花束を男からもらうなんて、どんな美人なんだろう。しかもセレブ感ある……」というイメージづくりに完全に成功しているのであった。

 フェイスブック怖い。いや、母のセルフプロデュース能力が怖い。燃えるような60本の薔薇――母の真っ赤なフェイスブック活動は、これを境にますますヒートアップしてゆく。(つづく)